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 橘さんカコイイヨ橘さん
 一般人たる広瀬栞をして「橘さんは頼りにならないし」とまで言わしめた、やられキャラライダー・橘ギャレン
 最終話を目前にして、意外なまでの勇姿を我らの前に示してくれた。
 以下ネタバレ
「ジョーカー……今度こそ、封印する」
 海岸の岩場をよじ登りつつ、金居は呟いた。
 岩場の向こうに建つ廃屋に、獲物はいるはずだ。
 現在、封印を免れているアンデッドは、彼と【ジョーカー】の二人のみ。
 今まで封印の手段をもたなかった彼にとって、この戦いは分がないものであった。
 しかし、今は違う。
 人間である天王寺博史が研究の末開発した、【ケルベロス】のカード。
 このカードを用いれば、ほかのアンデッドを封印することができる。
 そして、【ジョーカー】は、人間である居候先の栗原親子を愛しはじめていた。

――ジョーカーが勝てば、世界は滅ぶ。あの親子も消滅する。それを奴は望むまい。
  ジョーカーは戦意を失い、封印のカードは我が手の内にある。
 金居は、勝利を確信していた。
 俺が勝利し、俺は俺たちだけの世界を作る。人間など一人もいない素晴らしい世界を。
 ギラファノコギリクワガタの世界の成立を目前にして、金居はほくそえんだ。
 
 その時。
 金居の前に、人影が立ちはだかった。
 橘朔也――仮面ライダーギャレン
「何のつもりだ」
「ジョーカーは……、相川始は、渡さない!」
 問う金居に対して、橘は言い切った。
「いいのか?
 俺を封印すれば【ジョーカー】の勝利が確定する。そうなれば、人類を含むこの世界は消滅する」
「そうなるとは限らない」
 ギャレンのバックルを、胸元にかかげる。
「……信じてるのか?」
「俺の友がな」
 これ以上の会話は無用とばかりに、橘はバックルを腰にあてがった。
 ベルトが腰に巻きつき、橘の前に半透明の壁が現れる。
 ゆっくりと壁を通り抜け、ギャレンの装甲を身にまとった。
 腰から銃を引き抜き、金居に向けて弾丸を放った。
 金居の前に緋色の煙が生じ、弾丸を受け止める。
 ギラファアンデッドとしての本来の姿が顕わになった。
 銃撃が敵に通じていないのを見てとり、橘は次の手に移った。
『absorb queen--fusion jack』
 孔雀の翼が、その背を覆う。
 大地を一蹴、空へ跳躍。
 降下しながらの銃撃が、ギラファの体に雨霰と降り注ぐ。
 緋色の結界は、それにもびくともしなかった。
「くっ」
 第二の攻撃も防がれ、やむなく橘は敵の頭上を通過した。
 敵は、やりすごしたかと思いきや、その背に向かって跳躍。
 脚をつかまれ、右翼を叩き折られ、橘は岩場に墜落した。
 立ち上がろうとするその胸に、大鋸の一撃が飛ぶ。
 弾き飛ばされた橘に、さらに斬撃が続く。
 一、二、三――金居の大鋸は、着実に橘を追い詰めた。
「あ、……あ」
 繰り返される猛攻に耐えきれず、橘は岩に腰をおろした。
 その呼吸は既に荒く、両肩は激しく上下している。
――ギャレン敗れたり。
 金居は、勝ち誇った顔で【ケルベロス】のカードを橘の胸に突きつける。
 アンデッドの力を借りて鎧とするライダーシステムにも、その封印の力は有効なのだ。
 
 橘の指が動いた。
 カードを握る敵の腕を、力の限りつかみ取る。
 もう一方の腕は、敵の胸に銃口を突きつけていた。
「この距離ならバリアは張れないな!」
 引き金を引いた。
 ギラファの胸を、無数の弾丸が穿つ。
 突然の銃撃に、敵の体が痙攣した。
「こ、――このッ!」
 カードを握った腕は、ギャレンに掴まれていて動かせない。
 自由な片方の腕で、大鋸を苦しまぎれに打ちつけた。
 火花が飛び散り、斬撃音が海辺に響く。
 ギャレンの胸当てが十字に引き裂かれ、肩当が砕けた。
 それでも、橘は撃つのをやめなかった。
 そのマスクを大鋸が打った。
 乾いた音があがり、鉄の破片が飛んだ。
 破れたマスクの間から、橘の血にまみれた素顔が覗く。
 一瞬の隙をつき、大鋸を握る腕を胸元に抱えこんだ。
 ギラファの斬撃が止む。
「俺は、全てを失った。信じるべき正義も、組織も、――愛する者も、何もかも」
 馬鹿め。俺を封印しようなどと考えるから、そのうえ命まで失うことになる。
 とどめを刺そうと、ギラファは腕を引き抜き――
 抜けない。
 橘の腕が、大鋸を握る腕をしっかりとはさみこんでいる。
 この瀕死の男の、どこにこんな力が残っているというのか。
 二度、三度と力を込めた。
 抜けない。
「だから、最後に残ったものだけは、失いたくない――信じられる仲間だけは!」
 橘の腕が、金居の腕を放した。
 突然支えを失ったギラファは、勢いあまってのけぞる。
 橘が立った。
 銃口はしっかりとギラファの胸を捉えている。
 撃った。
 撃った。
 撃った。
 飛び散る火花、噴きあがる弾幕、砕け弾ける肉片。
 ついに、ギラファのバックルが開いた。谷間から覗く赤字のK。
 橘は、封印のカードを取り出し、よろめく足で敵に近づいた。
 今まさにその胸にカードが触れようとするとき、ギラファの体が動いた。
 最後の力をふりしぼり、カードをはたきおとす。
 橘の手を離れたカードは、絶壁の下の波間へと消えていった。
「【ジョーカー】が残り、世界は滅びる――馬鹿だな、お前は」
 封印をやめろ、今なら間に合う。俺じゃなくジョーカーを、ジョーカーを封印しろ!
 ギラファは、金居の姿を使い、最後の説得を試みた。
 橘は動かなかった。
 もはやお前の舌は俺を騙せはしない。
 割れた仮面の下の顔が、静かに微笑する。
「おおおおっ!」
 叫び、敵の体を掴んだ。
 もろともに、波間に消えたカードめがけ、跳ぶ。